高齢の父親が犬の世話をするという作業

前回、友人の美里が話してくれた子犬の世話を通して元気を回復した父親の話を書きました。長年飼っていた愛犬を亡くしてひどく落ち込んでいた父親は、家族が迎え入れた生後3か月の子犬を世話して、どんどん元気になっていったのです。今回は、犬の世話という作業と父親の回復の話を作業の見方から以下の視点で分析します。
犬の世話をするという作業の形態
その作業の機能
その作業の意味
まず高齢の父親が子犬を世話しているところを想像しましょう。
状況
美里の父は長年働いた後に80代で退職した。同じ頃長年可愛がっていた柴犬のあんずが17歳で亡くなった。父は寂しいと言い、落ち込んで家から出なくなった。美里たち家族は相談して、子犬を飼うことに決めた。
その作業の形態:
家族は父親のためにトイプードルの子犬を家に迎え、ユズと名付けた。父はすんなり子犬の世話を始めた。父はほぼ一人で、子犬の世話をした。常に子犬と一緒に過ごし、注意を払い、子犬のために室温を管理し、食事の世話、しっこ、うんちのしつけを細やかにこなした。TVを見る父のそばにはいつも子犬がいた。父は子犬をおもちゃで遊ばせ、膝にのせてほほ笑むようになった。子犬を散歩に連れて行き、近所の人と話すようになった。子犬は父にとても懐いて、父と24時間一緒に過ごしている。父は子犬を世話し、保護し、育てた。父は子犬の必要を満たすためにルーチンをこなしながら、充実した生活を送る。ユズも家族の一員として成長し、幸せな生活を送る。
その作業の機能:
父親は退職後に、長年飼っていた愛犬を喪失し、危機に遭遇した。ともに過ごして来た愛犬を失った父親は、意味のあるルーチンを失った。落ち込んで、希望を失い、生活全般の活動が低下した。
家族が子犬を迎え、父親の前に生後3か月の子犬が登場した。子犬は世話してくれる人を必要としていた。父はすんなり世話を始めた。父親は犬の世話がもともと得意だったし、好きだった。
父は子犬の生活環境を調整し、食事を与え、排せつの世話をし、生活のルールを教えた。子犬は成長していった。父は幼い子犬に必要とされた。世話するために、子犬に注意を集中し、観察し、子犬の要求に答えながら、自分が必要とされることを感じ、子犬の世話に没頭した。世話をしながら、子犬に必要とされることは父の自信となり、喜びを見出した。子犬の世話は父を適度に忙しくさせ、満足させ、意味のある作業となっていった。子犬を抱き上げるときに父には笑顔が浮かぶ。散歩を通して、父は近所の人たちと交流を広げた。子犬の世話は、子犬の成長だけでなく、父の生活全般に活気を回復した。父は笑顔になり、元気になった。子犬は父になつき、父は子犬にとって大切な存在になっていった。子犬の世話を通して、無為に過ごしていた父の毎日が、楽しく、活発で、平和な毎日になった。家族も父の変化に安心し、喜んでいる。
その作業の意味:
父はもともと幼い者、弱いものを世話するのを好んでいた。以前に飼っていた犬を末娘だと呼ぶほど、大切にしていた。愛犬の喪失は、父にとって、大切な作業のパートナーを失うことであり、毎日実行してきたルーチンの喪失である。彼は生きる喜び、生活の安定感、必要とされる充実感、明日への希望を失っていた。
生後3か月の子犬が希望を失った父の生活に登場した。子犬は生きて、成長するために誰かの世話を必要としていた。幸いなことに、父は犬をケアするとはどんなことか、その良さも含めてよく知っていた。ケアのスキルもその特徴も熟知していた。でも、この意味のある作業は、父だけでは成り立たないし、子犬だけでも成り立たない。
この作業は世話をする人とされる犬からなる共作業である。その作業の参加者である人と犬が、相互に交流し、お互いに影響し合う。ケアには共作業のダイナミックな特徴がみられる。生後3か月の子犬は世話してくれる者を必要としていた。犬をよく知る父は必要とされることをよく認識していた。常に子犬に注意を向け、犬が生きていけるように必要なことを実行していく。この作業は24時間続く。食事の世話、体温管理、排せつの世話は子犬と父のルーチンとなり、両者の毎日を構成する。父は忙しくなる。以前彼を占めていた空虚さは消えていった。犬は父を頼りにし、父も犬から充実感を感じる。この共作業は両者の間に信頼関係を築き、ケアを通してそれぞれの生き方に安定感を与える。明日への希望が生まれ、成長が可能になる。父は必要とされる実感を持ち、自信を持ち、犬に感謝のこころ、愛を持つ。両者に意味のある生活を運んだ。
家族の視点では、犬の世話は父が充実した時間を過ごし、元気になる機会になった。家族にとっても安心、ウェルビーングという意味があった。



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